微小粒子状物質(PM2.5)の発生源解析2
● 代表的なモデル
レセプターモデルの中で最も広く利用されているモデルは、CMB法とPositive Matrix Factorization(PMF)法です。ここではこの2つのモデルについて、その長所と短所を比較します。
- CMB法
CMB法では、発生源の情報がすでにわかっていることが前提となります。測定地点に影響を与えている発生源の種類とその発生源プロファイルが、解析の入力データとして必要です。発生源ごとの発生源プロファイルがわかっているので、1回の環境測定データからでも、比較的簡単に発生源寄与を推定することができます。少ないデータで発生源の寄与を推計できること、それがこのモデルの長所ということができるでしょう。一方で、このモデルでは、どのような発生源を想定するのか、発生源プロファイルがどれだけ適切であるかによって、得られる結果の信頼性が左右されてしまいます。想定した発生源は正しいのか?発生源プロファイルは最新で適切なものなのか?現在のところ、発生源におけるPM2.5に関する調査や、発生源プロファイルを作成するための調査事例が少なく、実際には、測定地点での発生源について、正確な情報を得ることは大変難しいのが現状です。 - PMF法
PMF法は多変量モデルのひとつで、CMB法とは異なり発生源の情報は必要ありません。その代わり、1回のデータではなく複数の環境測定データを使い、その変動に着目して解析することで、発生源プロファイルとその寄与を同時に導き出します。あらかじめ発生源を想定しておく必要がないことは、PMF法の長所です。ただし、このモデルでは、発生源の数(因子数)を決めることと、解析結果として得られるプロファイルの解釈(発生源の同定)が必要となります。ここが解析にあたって最も悩みどころです。モデルとして一番ふさわしい発生源の数(因子数)はいくつなのか?解析結果のプロファイルはどのような種類の発生源と考えればいいのか?試行錯誤での解析となります。また、PMF法の特徴として、解析結果を特定の発生源に断定することが出来ないことが多くなります。なぜなら、発生源を特徴付ける成分の変動が似通っている場合、個々の発生源の寄与を完全に分離することが難しいためです。発生源に対する規制指導を行おうと考えた場合、発生源を特定できないという点はPMF法の欠点ともいえるでしょう。
入力データ | 長所 | 短所 | |
---|---|---|---|
CMB法 | ・環境測定データの 成分濃度 ・発生源の情報 (種類とプロファイル) |
・1つの環境測定データ でも計算が可能 |
・発生源の情報 (種類とプロファイル)が あらかじめ必要 |
PMF法 | ・環境測定データの 成分濃度 |
・発生源の情報 (種類とプロファイル)を 必要としない |
・数多くの環境測定データ が必要 ・発生源を特定できない ことがある |
発生源の寄与を推計する場合には、それぞれのレセプターモデルの特徴を踏まえたうえで、対象とする地域の特徴と環境測定データの数によって、モデルを選択することが必要となるでしょう。PM2.5の濃度に寄与している発生源が想定でき、環境測定データの数が限られたものである場合にはCMB法、発生源の想定が難しく、複数の地点で数多くの環境測定データがある場合にはPMF法を選択する、などが考えられます。一方で、同じ環境測定データを用いてCMB法とPMF法の解析を行った場合、それぞれどのような結果になるのか?それも興味があるところです。
レセプターモデルの運用に共通する課題として、PM2.5の発生源プロファイルの整備が挙げられます。CMB法では適切な発生源プロファイルを必要とし、PMF法ではプロファイルの解釈に発生源プロファイルでの特徴を参考にしなくてはならないことから、どの方法においても発生源プロファイルなしでは意味のある結果を導き出すことができません。また、レセプターモデルでは適切な誤差を与えれば正解が得られるようになっているため、測定に伴う誤差をどのように評価して取り扱うのかが大変重要となります。レセプターモデルによる解析が単なる数字の操作となることがないよう、「発生源プロファイルの整備」と「精度管理のなされた環境測定データ」がなくてはならない条件といえるでしょう。
【参考文献】
微小粒子状物質健康影響評価検討会報告書、
平成20年4月、3.2.5 発生源寄与濃度の推定(レセプターモデル)p.3 – 37
微小粒子状物質(PM2.5)の発生源解析1
微小粒子状物質(PM2.5)の発生源解析2