微小粒子状物質(PM2.5)の発生源解析1
● PM2.5の発生源解析
大気中の浮遊粒子状物質については、現在SPMの環境基準が定められていますが、より微小な粒子の健康影響に着目したPM2.5の環境基準が検討されています。環境基準が設定された後には、基準を達成するための様々な対策が必要となります。有効な対策を行うためには、発生源が何で、どのくらい環境の濃度に影響しているのかを正しく把握することが重要です。しかし、浮遊粒子状物質はNO2のようなひとつの物質からなる汚染物質とは違って、さまざまな大きさの粒子と化学成分から構成されていて、複雑な性状を持つことから、どの発生源からどのくらいやってくるのかを見積もることは難しくなっています。
ここでは、PM2.5の環境濃度に対する発生源の影響の度合いを推計する手法であるレセプターモデルについて、その考え方と代表的なモデルを紹介したいと思います。
● レセプターモデルとは
レセプター(Receptor)とは、生物学で「受容体(生物の体にあって、外界や体内からの何らかの刺激を受け取り、情報として利用できるように変換する仕組みを持った構造のこと by Wikipedia)」を意味しますが、発生源解析では「大気環境濃度の測定地点」をさします。レセプターモデルは、そのレセプターでの大気環境濃度の測定を出発点とし、そこから逆にたどって発生源寄与濃度を推定するものです。なお、レセプターモデルとは対照的なモデルとして、発生源の排出データから出発し、汚染物質の輸送と変質をシミュレートして最終地点での大気への影響を推定するソースモデル(Source Model)と呼ばれる解析手法もあります。
レセプターモデルの基本は2つの考え方にあります。発生源を2つのみとした例で考えましょう。
まずひとつ目は、ある地点で測定されたPM2.5は、発生源1と発生源2から排出された粒子の足し合わせである、ということです。これが、レセプターモデルの考え方の基礎となります。
ふたつ目は、各発生源では、排出される粒子を構成する化学成分の組成に特徴がある、ということです。例えば、黄砂のような土壌を起源とする粒子では、地殻を構成する主な元素であるケイ素(Si)やアルミニウム(Al)の占める割合が大きくなります。自動車から排出される粒子では、炭素成分が主となっています。
これら「環境中のPM2.5は各発生源から排出される粒子の足し合わせであること」と、「発生源ごとに成分組成の特徴があること」、この2点に着目し、環境中のPM2.5のうち、どれだけの量が発生源1から排出されたものなのか?発生源2からはどれだけやってきたのか?すなわち発生源ごとの環境濃度への寄与濃度を推計するのがレセプターモデルです。
レセプターモデルによる発生源解析のイメージ
レセプターモデルでは、測定された大気環境中のPM2.5の成分組成がスタートであり、入力データとなります。発生源から排出される粒子の成分組成は発生源プロファイルと呼ばれ、レセプターモデルにおける発生源情報となります。
レセプターモデルには、発生源情報の取り扱いの違いによって多くのモデルが存在します。大きくは、解析に利用できる発生源情報がすでにわかっていることを前提にした「Chemical Mass Balance(CMB)モデル」と、発生源情報がほとんどない場合に適用される「多変量モデル」に区別されます。次に、これまでに広く利用されている代表的なモデルを紹介しましょう。
微小粒子状物質(PM2.5)の発生源解析1
微小粒子状物質(PM2.5)の発生源解析2